英単語の暗記は、英語学習の基本でありながら、あまりに軽視されているか、無駄に時間をかけてしまうことの多い分野です。
ここでは、英単語の暗記に特化して、普段私が指導している学習法をお伝えしていきます。初心者向けの内容です。
上級者(英検準1級合格後)向けは作成中です。
英単語暗記作業の大前提
①暗記のメカニズムを理解する
人間の脳は、忘れるようにできている
人間の脳は必ず忘れるように出来ています。毎日必ずすることや、重要だと(脳が)認識しているものは忘れづらいです。
しかし、暗記をはじめとして「勉強はなるべくやりたくない」し「勉強が重要だと本気で思っていない」です。だから「毎日やる」ということはほとんどありません。毎日やらないし、重要だとも思ってないので、覚えられないのです。出来ない理由は、明確で、簡単ですよね。
忘れて当たり前です。せいぜい1回2回覚えなおして覚えられない、なんて嘆く必要はありません。毎回「1回で覚えてやる!」と思って取り組んだって、何度も覚え直す単語が出てきたりします。嘆く暇があれば、もう1回覚えなおしましょう。
覚えたかどうかを何度も確認する
毎日、しかも出来るだけ頻繁に、暗記すべきものを確認し、それが思い出せるか確認する、これを徹底的に繰り返さないと覚えきれません。
また、「覚えたかどうか」をチェックすることを、暗記が苦手と自称する皆さんは怠っています。暗記が得意な友達がいると思いますが、暗記が得意なのは、記憶力が人より素晴らしいわけではなく、なんどもチェックして覚え直した結果として覚えているだけです。
忘れたかどうかチェックするのは、忘れてしまったことを自覚する行為ですから、怖いのかもしれませんが、そこを避けていては何も覚えられません。忘れるのが当たり前(人間の脳味噌がそういう働きをするわけですから)なので、気にせずチェックしましょう。
②本番で必要な暗記強度を把握する
方法による覚えやすさは人それぞれだが…
ここから、「覚える手順」だけでなく、「覚え方」についても説明をしていきますが…「書いて覚える」「読むだけ」「音読してみる」何がいいのですか?という質問は散々受けます。知識や人によって覚えやすい覚え方があるので、色々試してみると良いです。
やってみるとわかりますが、書いた方が良い知識・単語、読むだけで覚えられるもの、声に出すだけで覚えられるものといった、覚える難易度が異なるものがあるのに気づくと思います。
こうした「暗記強度の違い」に気づいていないというのはそもそも勉強を進めてない証拠なので、勉強のし始めは「自分にあった覚え方」みたいな形にこだわるよりも、まず、勧められるがままに暗記を進めてみて、取り組み後の暗記の成果に応じて、さらに覚え方を工夫する、という順番が良いと思います。
原則:「見てわかる」単語をまず増やす
基本的には「見て意味が出てくる」で大量の英単語をインプットできていないと、実際の本番では間に合いません。全ての英単語を「書いて出てくる」まで覚えるのは大変結構なことですが、それでは入試本番までに、必要な英単語を全て「英文の中で読んで思い出せる」まで覚え切ることはできません。
英単語の暗記について、多くの高校生が勘違いしがちなこととして、「試験で書かなくちゃいけないから、書けるまで覚えないと意味がない」ということがあります。
しかし、最初の学習段階において「書けなければいけない超基本的な単語」は「読んで意味が出てくれば良い」単語よりも遥かに少ないです。実際、入試では「読んで意味が出てくれば良い単語」がほとんどです。読まなくちゃいけない問題がほとんどですし。
ですから、まずは「読んで意味がわかる単語を増やす」で大丈夫です。
ただし、中学レベルで必須とされる1800語程度の英単語・英熟語は、書けなくてはいけません。英検2級レベルの英作文でも、中学レベルの英単語で書き切れます。ここを書けるまで覚えてないのであれば、大学入試の英作文にも支障が出ます。自信のない人は、中学レベルの英単語から復習しましょう。
最終的には、読みながら意味が出てこないと、意味がない
英単語の意味だけを問われる問題はほとんどありません。例えば、simultaneousと言う単語の意味を苦労して覚えたところで、この単語を出されて意味を答えなさい、という問題は出ません。ちなみに意味は「同時多発的な」です。
大学入試の英語は、単純な単語テストではありません。他の単語との意味の違いだったり、英文中の中で意味を判断させる問題ばかりです。長文を時間内で読み切れる早さで単語の意味が出てくるまで仕上げていかないといけません。
単語暗記の締めとして「長文で自分が覚えた単語の意味」が出てくるかを確認していきます。多読・速読用の教材を使ったシャドーイングの訓練をすることで、実際に英文を読んだときに単語の意味が出てくるスピード、解釈のスピードを上げていきます。
ただし、この段階の学習は「高校レベル英文法」の習得と、「1冊目の高校レベルの英文解釈の本」の1回目の復習に入ってからにしましょう。そうでなければ、ただの英文丸暗記になってしまいます。→「英文法の学習法(概論)」「英語の学習法(概論)」を参考にしてください。
③基礎知識は、直接的でわかりやすい形では問われない
日本語訳だけ覚えても応用が利かない
繰り返しますが、どれだけ英単語を覚えたところで、英単語の意味を直接問われる問題は入試では出ません。
特に、抽象度の高い意味の英単語は、何との類比で使われているか、何との対比で使われているのかという文の構造によって、意味が決定される場合がほとんどです。例えばhigh, longなどの基本的な形容詞でも、常に「高い」「長い」と訳されるわけではありません。
- the high life...上流社会(上側の生活=概念上の高さを表す)
- the long memory...強い記憶力(長時間の記憶=時間的な長さを表す)
こうした問題に対処するためには、
- まずは主要な意味だけで良いので、知っている単語そのものの数を増やす。
- 知っている単語について、別の意味に広がる共通のイメージを覚えたり、他の単語との関連を増やして、応用が利く形に知識を深める。
というステップを踏んでいく必要があります。こちらは詳しくは自称中級者編で説明していきます。
具体的な取り組み方
暗記作業の大前提から、具体的な暗記作業に必要なことは、
- 触れる回数・チェックの頻度を増やす
- 本番で必要な思い出す速度にするために、速読・多読をする
- 最終的に、応用が利く形で覚える(→自称中級者編で説明)
以上の3つにまとめられます。
①触れる回数・チェックの頻度を増やす
まずは、覚えている単語数を一気に増やしていくために、暗記の回数・チェックの回数を大量に増やします。
これは重要な情報だ、と脳に信じ込ませる
なるべく毎日やるのは当然ですが、学校に通っているならば、毎回の休憩時間や弁当の時間などにも、少しで良いですから英単語帳を開いて覚えているかチェックする、あるいは新出単語を少しでも覚えていく、という動作をすべきです。
理由は、今覚えようとしていることが、大事なことなんだよ!と脳に勘違い、あるいは信じ込ませるためです。
君たちも、学校に毎日通っているからかろうじて勉強をしているだけで、そもそも勉強自体はそこまでやりたいと思ってやっているものではないはずです(例外的な存在がいることは認めます)。
ですから、まず暗記を進めようと思うのならば、今覚えようとしているものは、自分にとって大事なんだ、と思い込ませることが必要です。
回数をこなすことは手段で、目的では無い
暗記をするならばここが一番基本の動作です。しかし、この話だけすると、みなさんこのように言ってきます。
n回書いた、n回読んだ、n回見た…でも覚えられません!
君たちのそれは「暗記作業」ではなく、「ただの作業=手の運動」です…。回数をこなすことが必要なのはそうですが、結果的に覚えられていないならば、ただの手首の運動ですね。
このように、ほとんどの人は「回数をこなすことが目的化」してしまいます。そのため、次の「覚えているかどうかチェックする」とセットにしないと、自分の覚え方・触れ方が適切かどうかわかりません。
「覚えたつもり」をなくすチェック
覚えたつもりの英単語は、覚えたかどうかをチェックしましょう。これがめちゃくちゃ大事です。まずは、1単語につき、1つの意味が出てくれば良いです。主要な意味でなくても、自分が知っている、イメージしやすいものが挙げられれば、最初はそれで構いません。
ある単語の意味が出てくるまで「3秒以内」であれば、その単語が暗記できている目安です。出てくるまで早ければ早いほど良いです。
もし、意味が出てくるまでに3秒より長くかかるようであれば、覚えてないとみなして、三角マークでも付けて、暗記作業に戻ってください。
単語帳さえあれば暗記チェックはできる
上で説明したように「書かなきゃチェックできない」と思い込んでいる人は相当多いです。このため、単語の暗記と言えば、机に座って紙を用意して時間をかけて一生懸命書いて…みたいなことをする人が多いですよね。しかも、ほとんどの人にとって、それは「チェック」ではなく、「覚えようとしてなんども書いている」ですよね。
覚え方はなんでも良いと言いましたが、はっきり言って時間の無駄です。どうしても綴りが覚えられないものだけを書くようにしましょう。
「読んでわかる単語を増やせば良い」という前提であれば、立ちながらでも歩きながらでも、お風呂に入りながらでも、単語帳さえあればチェックができます。
やり方は簡単です。あるページの単語を全部覚えたと思ったら、その場で本を閉じて、そのページに書いてあることを全部思い出せるか、声に出したり、空中に文字を書いたりしながらチェックしましょう。覚えていなければ、その場で覚え直して、再びチェックしましょう。一通り全部の項目が声に出せ、綴りを空中に書けるまで繰り返し行いましょう。
また、これだけ手間をかけて覚えても、しばらくしたら一部あるいは全部はどうせ忘れるので、次のページに進みつつも、唐突に以前覚えたページに戻ってチェックしてみましょう。
英単語だけで言えば、覚えたい範囲を500〜600語程度のまとまりに区切って、その範囲を繰り返し暗記してチェックを繰り返していくとやりやすいでしょう。単語帳は見開き1ページあたり10程度の英単語が書かれているでしょうから、見開き50ページ程度です。
これを「書いて覚えよう」とするならばとてつもない時間がかかりますが、「読んで覚える」「声に出してチェック」「指で空中に書いてチェック」ならば、いつでもどこでも暗記作業ができて、時間や場所を選ばずチェックできますから、あなたたちが思っているよりも早く終わりますし、結果的に時間もかけられます。
この段階でおすすめの英単語帳
この段階の想定学習者は、物凄い幅があります。
様々なレベルの学習者がこれを読むと思いますので、中学レベルから高校基礎レベルのものに絞り、提案した学習法が進めやすいものを紹介します。
単語・意味が羅列された、昔ながらの単語帳もありますが、現在では様々なものが出ています。
- 対応アプリがあり、アプリで暗記チェックができるもの
- 例文を暗記することで複数の英単語・熟語をまとめて暗記できるもの
- 単語の説明が詳しく、派生語や同義語、さらに語法までまとめてあるもの
中学レベルのおすすめ英単語帳
中学レベル段階で最もお勧めするのは「②例文暗記型」の単語・熟語帳です。
理由は、英語を学び始めで中学レベルがおぼつかない人は、そもそも英語に触れている時間や触れた英語の量が、授業以外ではほぼゼロという状況がほとんどであり、単語だけを見たところでそれが使われる場面が想像しづらいという困難さがあるからです。そのため、意味のある、あるいは使われる状況がよくわかる例文を中心に、単語熟語をまとめて効率よく暗記できる例文暗記型をおすすめします。
高校入門レベルのおすすめ英単語帳
高校レベル段階で最もお勧めするのは、一気に数を増やすために「①アプリ対応型」です。ただ、このタイプはレベルもかなり分かれており、難しいものから簡単なものまでありますので、自分のレベルに合わせたものを選んで欲しいです。ここでは、高校レベルに入り立ての人を想定してご紹介します。
このタイプの単語帳は、基本的にシンプルな作りをしており、アプリでのチェックもできるし、見開きに載っている単語数が多いので、上で紹介したような本を閉じてのチェックもしやすいです。1日の中で様々な形でチェックしていくことができます。
ベストセラーの単語帳は、アプリに対応してない単語帳も多いです。その中では、難易度順に掲載されており、見開きの単語数が多いシンプルな構成であるシステム英単語BASICがお勧めです。
②速読・多読で思い出すスピードを上げる
最初の単語帳(上で挙げたようなレベル)が一通り覚えられた時点で、その思い出すスピードを実用レベルまで高めるために、速読・多読をシャドーイングを通じて行います。
使う教材は速読英単語シリーズです。英文の難易度は、速読英熟語<速読英単語 必修編です。まずは速読英熟語から始めましょう。1分間に150単語程度のスピードで収録されていますので、この練習を重ねれば、同じぐらいのスピードで英語長文が読めるようになります。
まず、1日1長文ペースで、一冊に載っている長文を全てシャドーイングする練習をします。二周目以降は、いきなりシャドーイングをやってみてすんなりできそうならやってみる、そうでなければ、以下で説明する手順を踏んで再度その場でできるまで取り組みます。
丸暗記が目的ではなく、音声を聞くスピードで意味がわかることが目的です。ここを間違えていると、シャドーイングができるようになっても、点数にはなりません。
朗読音声と同じスピードで理解する
以下の手順で、音声を聴きながら意味が取れるまで練習していきます。
- まず黙読で英文全体を読み、意味がわからない箇所をチェックする。
- 音声を聴きながら英文を読み、前からどう区切れば、聴きながら意味が取れるかを考える。
- 音声だけを全体を通して何度か聞いて、内容が把握できることを確認する。
この際に、聴きながら全訳を思い出す、みたいな、本番で役に立たない丸暗記はやめましょう。あくまで「英文の朗読音声のみを聴きながら、頭の中で意味のカタマリに区切り、内容を把握していく」練習です。
英文法や英単語の知識を、英文を耳から聴きながら瞬時に思い出せる=イメージできる状態に持っていくための練習なのです。耳から聴けるようになれば、同じ語彙・内容レベルの英文は目で読んでも同じスピードで読むことができます。
もし、ここまでの作業をするのに、1つの英文で30分以上かかるようなら、それは単語・熟語・英文法の理解レベルが間に合っていません。まずは前段階の復習から徹底しましょう。
朗読音声と一緒に音読→シャドーイング訓練
耳から聞いて理解できるようになったら、次は「音読」「シャドーイング」の練習をしていきます。
- 前回までの作業で聴けるようになった英文を、一文ごと、あるいは意味のカタマリごとに、英文を見ながら音声を聞いた後に真似して音読(リピーティング)し、意味が取れるか確認する。
- 英文を見ながら、音声と合わせて音読(オーバーラッピング)して、自分の発音やアクセントのズレを確認し、息継ぎのタイミングを合わせて意味のカタマリの把握に役立てる。意味が取れているか、内容が把握できているかは常に意識する。
- 英文は見ずに、音声に少し遅れて音読する(シャドーイング)。発音やアクセントはなるべく真似をする。単語の意味、意味のカタマリなどこれまで英文と一緒に読み取っていた内容を、耳からの情報だけで掴めるかどうか確かめながら行う。
このような手順で練習してください。
速読英熟語や速読英単語の1つの文章を、シャドーイングが一通りできるようになるまでにかかる時間の目安は30分です。最初の数回は30分以上かかるかもしれませんが、あまりに時間がかかりすぎる場合には、単語や文法・英文解釈の見直しから入ってください。
まとめ
- 暗記回数を増やす/チェックの頻度を増やす
- 音声の早さで思い出せるように練習する
簡単にまとめると以上になります。単語をしつこく覚えることや、1つの長文をシャドーイングするまで読み込むというのは時間も手間もかかりますが、目に見えて読解のスピードが上がっていく快感は何物にも代えがたいです。
やっていきましょう。